ていこくのはずれにて 太平洋編

 DとCの一家、夫婦と二人の幼児が大さわぎの末にフィジーへとたって行った。

 C女氏が家人の外縁にあたる。詳しく言うと五人兄弟姉妹の家人の長兄ジャスのパートナーSの末妹が今回のC。D氏はその夫でメキシコ人。メキシコから振り出した二人のパースへの着地の試み、失敗、辺縁地域への出戻りならぬ出稼ぎはこれで二度目。2、3年のうちに上の子の小学校とか色々になってくるのでもう失敗できない。ここはもう一度、旧帝国本体のはずれからさらに海を越えた辺縁へ出稼ぎ、今度はフィジーでしっかり貯金して三度目の軟着陸にかけるようです。

 D氏とCはアメリカで出会い、DはCを連れて故郷のメキシコにあるアメリカ企業の事業所へ赴任し、しばらくして結婚。米ドル払いのアメリカ本社採用の社員として地元メキシコへ赴任という人も羨む生活もしばらく、メキシコのどっかの都市にあった事業所の閉鎖とともに二人の流浪が始まる。大学に長くいすぎたCに見つかる仕事は英語教育関連のプログラム程度。メキシコの田舎での英語教師を皮切りに>パース>マレーシア>パース。二度目のパースでは二人ともかなり頑張ったけど、2年ほどもジタバタした挙句に高い家賃、車のローン、バカ高い保育所代の三重苦にギブアップ。好条件ということで行ったこともないフィジーでのNGO関連の仕事に応募、悩んだ末に条件に合意して2年プラス1年オプションで南の島へと旅立った。2年で将来の家のローンの頭金、自動車の一括購入資金、子供の学資の最初の部分やらを貯めて「もし仮に、またまた3度目も、パースで二人ともパートタイマーの仕事しか見つからなかった」としても最初にまとまった現金があればなんとか落ち着いた生活をスタートできるはずとの算段だと言います。

 ー出稼ぎ労働者の産地(=低賃金)に町から行ってNGONPOで働くと、同じ人が町で働くよりずっといい給料をもらえる場合もあるってのが不思議だったのですが、ここの人たちはなんとも思わないようです。

フィジー人の給料    @パース>@フィジー

オーストラリア人の給料 @パース<@フィジーでNGO  ー

 

ーーここではNGOを経由した辺縁部からのVターン式のお金の還流には触れないでおきましょう。第二次大戦後の”新世界秩序”では南太平洋諸島は国連信託統治領で豪州がトンガとPNGを、NZが西サモアを後見し、フィジーにはイギリスの影響力を残し、東サモアは米領としたそうです。フランスもポチポチと素敵な島を持ってますねーー

 

ーーーC女氏は勉強しすぎてその専門を活かせる職場は自身の最終学歴のその学校ともう一箇所、世界に二箇所しかないそうです。その前の修士号?かなんかが求められる職じゃダメなのかしら??なんのことやら理解しかねますーーー

 

 家人の長兄ジャスのパートナーSは三姉妹。太っちょと痩せすぎのケチケチな双子にちょっと年の離れた明るい妹Cというグリム童話のような家族構成。双子の片方が近所に住むジャスのパートナーで痩せすぎの方はインドネシアの東のはずれの方、バリから東へふたつ目の島に住む。夫はちょっと乱暴な社風で通ってる鉱物関連のN社に勤め、二人のお嬢さんたちが小学校の高学年になるまではインドネシアに駐在して蓄財する予定だという。このような遠隔地への赴任はいわゆるアゴ足つきどころか屋根に家政婦も付いてくる。収入はほぼまるまる財布に残る、1シンガポールジャカルタへの散財旅行をしなければ確実に残る。2自分のでも、親のでも親戚のでも、休暇時にパースに寝泊まりする家があればなおさらに残る。両方ないと意外と残らない。

 

 僕の義兄に当たるジャスは町から東へ700キロの彼方で鉱山の現場監督を務める。所有権採掘権その他その他が細分化された貴金属宝石鉱山業界にあって彼の務めるサラセン社は生粋の金採掘業者。一日二交替12時間勤務+管理のうけわたしで実質13から14時間労働を8日間つづける。続いて飛行機で移動と休暇で6日間。8勤6休の14日で1サイクルの勤務。忙しい時は400人もの面倒をみる工区長ともなると仕事のきつさは誰もが知ってるハードワーク。彼はさらに町で小商いを購入して休みの間も働いている。が、いくら稼いでも足りない。足りているのだけどパートナーのS(双子=太っちょ)は底なしの欲求の持ち主だ。

 

 ジャスの高校からの仲良し4人組はみな揃って資源関連の会社に務める。彼は州内の東部のゴールドフィールドで、二人は中東で、残りの一人はきついのはやめて、町に戻りシティーの事務所で働く、といっても事務職ではなくて現場と同じ12時間シフトで遠隔で現場車両の手配や運行指示をやっているそうな。中東で働く二人の話は華やかだ。どちらかが休暇の折は必ずジャスティンが自慢のキッチンの壁にビルトインされは3台のオーブンをフル稼働してあちらではご禁制の豚肉三昧でもてなす。その折に色々と聞こえるに曰く家は瀟洒な外人ゲットー、曰く家事はフィリピンから出稼ぎの家政婦が二人、息抜きはセスナでバーレーン。家族のストレス解消の買い物旅行はパリだ。これがジャスのパートナーで二児の母Sのハートに火をつける。上の子、高校生の女子の胸中も同様に燃え上がる。下の男の子も負けずと$150以下のサーカーシューズじゃまともにボールが蹴れやしない。せっかく個別にコーチングを受けてもこんな靴じゃコーチ代が無駄になるとか言い出す。

 

かくして帝国はその..... 『闇の奥』も身にしみるなぁ。

 

++西豪鉱山労働まめ知識++

FIFO=フライ イン フライ アウト

州の主要産業は鉱物資源系ですが大きな鉱床は町からはるか彼方にあって、ごく一部を除き鉱山町ってものがない。ライフラインの維持が大変すぎるなど諸々事情から、港湾を除いて荒くれ必至の新しい町はつくらず、上等の飯場=キャンプで済ませるので労働者は飛行機で鉱山に通い、これをフィーフォあるいはファイフォ(FIFO)と言いならします。最も一般的なシフトは1日二交代12時間で2週間働き、2週間オフ。4週間でならすとしめて28日間で168時間労働、週あたり4時間の超過勤務でギリギリ労働基準を満たす計算になります。連続勤務日数は短いと4日。毎日現場にいなくても良い技術者などが4日勤務、2日休み、1日移動日の7日サイクル。管理職の8勤6休。長いのは探鉱船や海上オイル・ガス・リグの8週勤8週オフが最長です。

 

と、これはしっかりした会社の話。足場屋や土工、便利大工などはもっと長時間働くそうです。

 

北の亜熱帯の港湾町の足場屋で働いてたのに聞いた話だと、毎朝の持ち物検査で水を6L以上携行しないと現場にはいれなかった。実際、毎日5L缶を2本飲まないとやりきれない。それだけ暑いそうです。

お金はすごく良いのですが、二週間オフの間はキャンプの部屋を開けて町に戻るかどうかしないといけないのでその間の出費で実入りに大きな差が出るようです。一軒家を借りて信頼できる同居人を管理人にしてさらにもう一人か二人FIFOの間借り人を入れるようなしっかり者もいれば、2週間ずっとシティーのバックパッカーに泊まってだらだら飲んでるもの、あるいはバリに家を借りてそこから通うものもいるそうです。