河口

ランドフェリーと呼ぶのか、最近の超大型車両の座敷席の壁際にならぶ、昔の飛行機の窓のようなちいさな小判形のはめ殺しの窓から河口が見えた。半分にしておいたブラインドをあげると二つの川が、一つは左手からまっすぐに海へむかい、もう一つはうねりながら海岸線とほぼ平行にこちらへ向かって勢いよく流れて来るのが、河口の手前で合流して大きなうねりを作る様子が見えておもしろく、眠気がするするとほどけてしまった。

よく見ると、合流点のコンクリートでできた大きな防波堤が二つの川の勢いの差をうまくなだめているのだけど、それでもそこここに波が立って、愉しそうに波乗りをする子供達がみえる。ある者はコンクリートの構造物のすぐ先にできる渦にのって、上手にいけばかなりの間、その場に留まったまま水の斜面を駆け下り続けるといった芸当を見せる。

 

なかなか愉しい見ものだと言うと、何か意思の疎通に齟齬があったようで、何もそんなものを褒めなくてもと言いながら河口の突堤の方にある、新しい観光マリーナ見てくださいという。いつの間にか同じような内装だけと先ほどまでの乗り物よりはかなり小さな舟に乗っていて、マリーナを海から観光していた。ここがレストラン隣が喫茶店で次が地元のアーティストの作品も扱うスーベニアショップ。店の前には舟をもやう場所がないのでちょっと歩くとこまで舟を廻すがよろしいかと丁寧にたずねられたが、頭の中では、アーティストの作品を扱うスーベニアショップってもっと言い方があるだろうにとぼんやり思っていたので返答に困ってしまった。

調子外れに、うちの近所にもマリーナがありますがこんな立派なものではありませんと返答したのだけれど、うちの近所のマリーナってのいったい何処なのか思い出すことができず、その事ばかりが気になってまた、 生返事をして親切な相手の気を損ねる心配も相まってやっぱり生返事をしてしまうのであった。