とっくに崩壊しています

長い引用。

あの人は今?な興味で村上龍のメイルマガジンに登録をしたら双葉郡の私立病院の院長さんの記事。わかっていたつもりでも、ちょっとショックでした。

 

<<□ 地域医療はだれのもの? 福島県双葉郡広野町・高野病院奮戦記 第2回

 ■ 高野己保 :高野病院事務長

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 ■from MRIC

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前回は、福島県広野町、高野病院における救急や死体検案の増加、除染作業員のモラ

ルハザードなどの新たに起きた医療問題についてお伝えしました。当院は現在、双葉

郡で稼働する唯一の病院です。今回は現在直面しているスタッフ不足問題や、私達の

地域医療への思いについてお伝えしたいと思います。

現在、当院のスタッフ数は非常勤勤務者を含めて96名です。しかし、この中には以前

から委託していた、清掃の人員も入っています。震災直後、委託関係の業者はすべて

手をひいていなくなりました。そのため当初は、医療資格職だけではなく、厨房スタ

ッフやお掃除スタッフも確保しなければなりませんでした。現在広野町のコンビニの

時給は日中勤務でも1200円。居酒屋さんのパートも1000円以上出さなくては人が集

まらない地域において、資格職以外の確保も難しいのです。

常勤医は院長1名になってしまいました。非常勤医師6名が週をつなぐように東京か

ら来てくれていますが、院長も週3~4回の当直、精神科指定医なので、精神科輪番も

月に5~6回、レントゲン技師がいないので院長が救急の際にもCT操作なども行って

います。

看護職は現在非常勤も含めて41名です。この数だけみると十分だと思われるかもしれ

ませんが、元からの職員が26%、県外からの勤務者が25%、残りが震災後新規採用し

た方達ですが、年齢的にはほとんど55~69歳に分布しており、長期の勤務が望めませ

ん。また県外からの職員が元の地域にお帰りになった場合は、現在の入院患者さんの

ケアが難しくなります。またご家庭の事情で夜勤ができない、土日祝日はお休みをと

いうスタッフも多いので、病棟で勤務を組むのがとても大変です。とにかく、人員を

確保することが第一であるため、多少の条件には目をつぶらなくてはならないのが現

状です。夜勤ができないからダメ、55歳を越えているからダメ、准看護師だからダメ

、などなど言っていたらこの地の医療は成り立たないのです。

みなさんは、行政は?と思うかもしれません。しつこいようですが、高野病院は双葉

郡でたった一つ残った民間病院です。この「たった一つ」、「民間」という言葉が、

今現在においても、これほどまで私達の重荷になるとは思ってもみませんでした。二

つ以上の病院の意見なら「みんなの意見」にもなるのでしょうが、一つだけだと、

「高野病院の意見」になってしまいました。私達の話を聞いて、それで助けてしまっ

ては、「公平性の観点からも不都合がある」が行政の考えでした。双葉郡においては

、公平性こそが不平等である、と私達は思っています。看護協会などの協会という名

のつく組織などには、ことごとく「人がいないのはあなたたちだけではない」と言わ

れました。

私達はずっとこの地で、震災後の地域医療の変遷を見てきました。地域医療の崩壊な

どと言われていますが、とっくに崩壊しています。だからこそ、今のうちに私達がで

きる対策を打たなければ、この地の医療は終わってしまうと危惧し、要望や陳情を行

いましたが、すべては高野病院の利益のためととる方もいて、公平性の壁に何度もは

ね返されるのでした。確かに病院は、職員にお給料を払わなければなりません。安定

した医療を提供し続けるために、病院を決して赤字にしてはならないのです。それを

金儲けのためと言われるならば、「はい。その通り、金儲けです」と言うしかないの

でしょうか。それは、地域医療を守る最後の砦が高野病院だ!という気持ちを失わせ

るには十分なものです。

そんな日々を過ごし、いつしか行政のいう「地域医療」なんて、守る価値もない、私

達は目の前の患者さんとご家族、広野町双葉郡の人達、この地で医療を必要とする

人達のために医療を提供し続けよう。そして私は、それを支えてくれるスタッフのた

めに、どんなことでもしよう。そう思うようになりました。そのためには人の確保。

国の制度も県の支援も、待っていられない。そして今も看護職だけではなく、他職種

の人材探しの旅が続いています。

<中略>

国は、福島県全体のデータしか見ていないので、医療従事者が前年より何パーセント

増えて良かったね、順調に戻っているね、と言います。しかし、福島県全体で見れば

数値的には戻っていても、双葉郡原発警戒区域にはだれもいないのです。今も震

災直後も大して変わらない状況で、医療を継続している私達にとっては、医者が増え

た、看護師が増えた…は、別の国の夢物語に聞こえます。確かに、双葉郡の現在のデ

ータがとれないのだから仕方がないと言われるかもしれません。>>